行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)が2026年1月1日に施行されました。議員立法による改正で、条文の分量は多くありませんが、第1条の性格が「法律の目的」から「行政書士の使命」へ変わり、特定行政書士の受任範囲、第19条の文言、罰則体系に実務上の影響があります。本記事は総務省公表の要綱・新旧対照表と施行後のe-Gov条文を原文で対照し、開業行政書士・行政書士法人が自事務所で何を見直すべきかに絞って5点を整理します。

この記事の結論

  • 第1条=使命規定(国民の権利利益の実現)、第1条の2=職責規定(品位・法令実務精通・公正誠実+ICT活用の努力義務)が新設・改正。行政書士法人にも準用。
  • 特定行政書士の不服申立て代理は「作成することができる書類」に係る許認可等まで拡大——本人申請・他事務所申請の不許可案件も受任可能に。
  • 第19条に「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」を明記——名目変更による脱法を条文で封じた。
  • 罰則は第21条の2(19条1項違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)に独立し、第23条の3の両罰規定で法人も処罰対象に。
  • 実務の見直し点は提携・業務委託契約の建付け、料金表の名目、電子申請体制、特定行政書士研修の受講判断の4つ。

1. 改正の全体像 — 新旧対照で見る5点

#条文改正前改正後(令和8年1月1日〜)
1第1条(目的)この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより…国民の権利利益の実現に資することを目的とする(行政書士の使命)行政書士は、その業務を通じて…もつて国民の権利利益の実現に資することを使命とする
2第1条の2〔新設〕(職責)①常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない ②デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない
3第1条の4第1項2号(旧1条の3)行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立ての代理行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する不服申立ての代理
4第19条第1項行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない
5第21条の2・第22条の4・第23条の321条2号に19条違反の罰則、両罰規定は限定的第21条の2(19条1項違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)を独立新設、第23条の3で21条の2・22条の4・23条2項・23条の2に両罰規定

このほか、第10条から「誠実にその業務を行なうとともに」が削られて見出しが「信用失墜行為の禁止」となり(誠実義務は1条の2へ移動)、第13条の17で行政書士法人に第1条・第1条の2が準用され、条番号の繰下げ(旧1条の2→1条の3、旧1条の3→1条の4、旧1条の4→1条の5)に伴う引用条文の整理が行われています。

2. 実務インパクト5点

2-1. 「使命」「職責」は訓示規定で終わらない

【原文・第1条の2第2項】行政書士は、その業務を行うに当たつては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない。

努力義務なので直接の罰則・懲戒事由ではありません。しかし第13条の17により行政書士法人にも準用され、日行連・単位会の会則や倫理研修の根拠規定になります。実務上の含意は2つ。①電子申請への対応は「任意のサービス」から「職責上の取組」へ位置づけが変わった。②第1条が「法律の目的」から「行政書士の使命」になったことで、弁護士法1条・司法書士法1条と同型の使命規定を持つ士業として、品位・誠実義務の解釈が厳格化する方向にあります。

2-2. 特定行政書士 — 受任できる不服申立てが広がる

改正前は「行政書士が作成した書類に係る許認可等」に限られていたため、依頼者が自分で出した申請の不許可や、他事務所が申請した案件の審査請求は原則受任できませんでした。改正後は「作成することができる書類」に係る許認可等であれば足りるため——

  • 依頼者の本人申請が不許可になった建設業許可・産廃許可・在留資格関係の審査請求
  • 他の行政書士が申請した案件のセカンドオピニオン的な不服申立て

が特定行政書士の業務範囲に入ります(弁護士法72条の法律事件に該当するものは従前どおり除外)。許認可分野で不許可案件の相談を受ける事務所にとっては、特定行政書士研修の受講価値が上がった改正です。なお第1条の4第2項の「日行連の研修課程修了者に限る」という資格要件自体は変わっていません。

2-3. 第19条「いかなる名目によるかを問わず」— 提携先・自社の料金名目を点検

【原文・第19条第1項】行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。

「コンサル料」「申請サポート料」「システム利用料」「成功報酬」など名目を変えても、実質が他人の依頼を受けて報酬を得て官公署提出書類・権利義務事実証明書類を作成する行為なら19条違反——この従来解釈が条文に明文化されました。行政書士側で点検すべきは次の3点です。

  1. 無資格事業者との提携・業務委託の建付け——行政書士が「名義だけ」で、書類作成の実態を提携先が担う構造は、提携先の19条違反(+両罰で法人も)と行政書士自身の非行政書士との提携問題の双方に発展します。
  2. 自事務所の料金表——報酬名目は問われないので行政書士側が不利になることはありませんが、「コンサル契約」と称して非行政書士スタッフの別法人に書類作成をさせる設計は危険です。
  3. 他士業・他業種からの「書類だけ作って」依頼——入管庁も経営・管理ビザの改正ガイドラインで「弁護士及び行政書士以外の方が、官公署に提出する申請書等の書類の作成を報酬を得て業として行うことは、行政書士法違反に当たるおそれ」と明記しており、所管庁側の目線も揃っています。

2-4. 両罰規定 — 無資格業者の「会社」が処罰対象に

【原文・第23条の3】法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第二十一条の二、第二十二条の四、第二十三条第二項又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

改正前は19条違反(旧21条2号)に両罰規定が及ばず、実行した従業員個人だけが処罰され、事業として無資格申請代行を行う法人に罰金が及びにくい構造でした。改正後は21条の2(業務制限違反)・22条の4(名称使用制限違反)にも両罰規定が及び、行政書士法人の義務違反(23条2項)にも整備されています。総務省は自治体の行政手続窓口に対し、申請様式への代理人行政書士欄の付記、電子申請フォームの代理人欄整備、窓口での注意喚起など違反防止の取組を要請しており、無資格代行の摘発環境は法律・運用の両面で強化されています。

2-5. 行政書士法人への準用 — 法人の「使命・職責」

第13条の17の準用対象に第1条・第1条の2が加わったことで、行政書士法人そのものが使命・職責・ICT努力義務の名宛人になりました。法人の社員行政書士だけでなく、**法人としての業務体制(電子申請対応、品位保持のための内部管理)**が問われる根拠規定です。

IT・オンラインでの解決策

ICT努力義務への最短の応答は、電子申請の取扱分野を明示することです。入管の在留申請オンラインシステム(申請取次者の利用者登録)、建設業許可の電子申請(JCIP)、法人設立ワンストップ(GビズID)、自治体の電子申請フォームへの代理人欄——総務省が自治体に整備を求めている代理人欄は、そのまま行政書士のオンライン受任インフラになります。あわせて、依頼者との本人確認・委任状・押印をオンラインで完結させる電子契約、業務管理のクラウド化は、「国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩」の具体的な説明材料になります。

3. 事務所の見直しチェックリスト

  • 事務所ウェブサイト・パンフレットの行政書士法引用条番号を更新(旧1条の2→1条の3、旧1条の3→1条の4)
  • 提携先(コンサル会社・人材会社・不動産会社等)との業務委託契約で、書類作成の実態が行政書士側にあるか確認
  • 料金表の名目を点検し、非行政書士の別法人に書類作成を委ねる構造がないか確認
  • 特定行政書士研修の受講・修了の有無と、不服申立て案件の受任方針を決める
  • 電子申請に対応できる分野・システム(在留申請オンライン、JCIP、GビズID等)を棚卸しして明示
  • 行政書士法人の場合、法人としてのICT対応・内部管理体制を社員会で確認
  • 職員・補助者への研修で19条「いかなる名目によるかを問わず」と両罰規定を周知
  • 無資格代行の相談を受けた際の対応方針(単位会への情報提供等)を整備

まとめ

項目内容
法律行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号・議員立法)
施行日令和8年(2026年)1月1日
新設・改正1条(使命)、1条の2(職責・ICT努力義務)、1条の4第1項2号(特定行政書士の範囲拡大)、19条1項(いかなる名目によるかを問わず)、21条の2(罰則独立)、23条の3(両罰規定)、13条の17(法人準用)
罰則19条1項違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金/19条の2違反:100万円以下の罰金/両罰規定あり
実務の見直し提携契約・料金名目・電子申請体制・特定行政書士研修
一次情報総務省「行政書士制度」ページ(要綱・本文・新旧対照表)、e-Gov法令検索

よくある質問

Q.2026年1月施行の行政書士法改正で何が変わりましたか?
A.5点です。①第1条が「目的」規定から行政書士の「使命」規定(国民の権利利益の実現に資する)に改められた、②第1条の2「職責」が新設され、品位保持・法令実務への精通・公正誠実な業務遂行に加えてデジタル社会を踏まえたICT活用の努力義務が置かれた、③特定行政書士が不服申立てを代理できる範囲が「行政書士が作成した書類」から「作成することができる書類」に係る許認可等へ拡大、④第19条の業務制限に「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言が追加、⑤業務制限違反・名称使用制限違反等に両罰規定(法人にも罰金刑)が整備されました。施行日は令和8年1月1日です。
Q.特定行政書士の業務範囲はどう広がりましたか?
A.改正前は「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等」に関する審査請求等の不服申立てしか代理できず、依頼者本人や他の者が作成・提出した申請が不許可になった案件は原則として受任できませんでした。改正後は「行政書士が作成することができる書類」に係る許認可等であれば代理できるため、本人申請や他事務所が申請した案件の不許可処分についても、行政書士の業務範囲内の書類に関するものなら不服申立て代理を受任できます。
Q.「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の追加で、何が禁止になりましたか?
A.新たに禁止行為が増えたというより、従来の解釈が条文に書き込まれたものです。コンサルティング料・サポート料・システム利用料など名目を変えても、実質的に他人の依頼を受けて報酬を得て官公署提出書類等を作成すれば第19条違反に当たることが明確になりました。違反には第21条の2で1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、さらに第23条の3の両罰規定により、従業者が業務に関して違反した場合はその法人にも罰金刑が科されます。
Q.ICT活用の努力義務に違反すると処分されますか?
A.第1条の2第2項は「図るよう努めなければならない」という努力義務で、直接の罰則や懲戒事由ではありません。ただし行政書士法人にも準用され(第13条の17)、会則・倫理研修・日行連の施策の根拠となる規定です。電子申請対応や依頼者とのオンライン完結など、ICT対応の遅れが「職責」の観点から評価される時代に入ったと捉えるべきです。

編集長の一言

条文の改正量に比べて、この改正が行政書士に求めるものは大きいと感じます。「使命」「職責」が法律に書かれた以上、電子申請に対応しない・提携先任せの書類作成を放置するといった選択は、単なる経営判断ではなく職責との関係で評価される時代になりました。一方で特定行政書士の範囲拡大は、不許可案件に正面から向き合う事務所への明確な追い風です。守りと攻めの両面で、年内に自事務所の建付けを一度棚卸ししておく価値があります。

出典・関連法令(一次情報)