「人手不足が深刻な地方ほど、外国人材に頼っているはずだ」——介護業界でよく聞く仮説です。当編集部が厚生労働省の介護オープンデータ(全国222,609事業所)と出入国在留管理庁の登録支援機関登録簿(11,533件)を法人名で突合したところ、データはこの通念の逆を示しました。高齢化率が高い県ほど、外国人受け入れに関与する介護法人の比率は低い。外国人雇用支援・介護事業支援を業務の柱に据える事務所にとって、市場がどこにあるかを示す分析です。
この記事の結論
- 介護事業を営みながら登録支援機関にも登録している「兼業法人」は1,051法人。その保有介護事業所は13,356カ所(全体の6.0%)。
- 都道府県別の兼業率と高齢化率の相関係数は**−0.36の逆相関**。高齢化が進む県ほど外国人受け入れ法人の比率が低い。
- 兼業法人の平均保有事業所数は約12.7カ所で、介護法人全体の平均(約3カ所)の4倍。受け入れを決めるのは人手不足の深刻さではなく法人の「余力」。
- 後期高齢者1万人当たり事業所数は埼玉47位・東京45位・千葉43位・神奈川42位——首都圏がそろって最下位圏。
1. データと方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 介護事業所 | 厚労省オープンデータ 2026年6月末時点・222,609事業所 |
| 登録支援機関 | 入管庁登録簿 2026年8月10日現在・11,533件 |
| 人口 | 総務省 住民基本台帳人口 令和7年1月1日現在(都道府県別・年齢階級別) |
| 突合方法 | 法人名の文字列を正規化(法人格表記・全半角等をそろえる)して照合 |
本記事で使用した都道府県別の集計データ(47都道府県×9指標)は、資料室からCSVでダウンロードできます。個別事業所・法人の情報は含みません。
2. 外国人を受け入れる介護法人は「大きい」
介護事業と登録支援機関を兼ねる1,051法人が保有する介護事業所は13,356カ所。法人数では介護法人全体の約2%に過ぎませんが、事業所数では6.0%を占めます。 兼業法人の平均保有事業所数は約12.7カ所——介護法人全体の平均(約3カ所)の4倍です。
これは制度の構造から説明できます。特定技能外国人の受け入れには支援計画の実施体制(10項目の義務的支援)か、登録支援機関への委託費という継続負担が必要です。一定の規模がなければ、そもそも受け入れの選択肢に乗らないのです。
3. 逆説 — 高齢化率と受け入れ率は逆相関する
都道府県ごとに「介護事業所のうち兼業法人が保有する割合(兼業率)」を算出し、人口指標と突き合わせました。
| 組み合わせ | 相関係数 |
|---|---|
| 兼業率 × 高齢化率(65歳以上) | −0.36 |
| 兼業率 × 後期高齢化率(75歳以上) | −0.33 |
| 兼業率 × 総人口 | +0.24 |
高齢化が進む県ほど兼業率が低く、人口が多い県ほど高い——「人手不足の深刻な地方ほど外国人を使う」という仮説とは逆です。
実際の分布をみると、高齢化率が全国最高水準の島根県の兼業率は3.3%、福島県3.0%、鳥取県2.9%と最下位圏に並びます。一方で高齢化率が全国最低の沖縄県は7.9%、大阪府6.9%、神奈川県6.9%と、都市部・人口の多い地域が上位に入ります。
理由は§2と同じ構造です。地方の高齢化地域は、人手不足は最も深刻なのに、受け入れコストを負担できる規模の法人が少ない。 「ニーズがある場所」と「受け入れられる場所」が一致していないのです。
4. もう一つの発見 — 首都圏の介護インフラは薄い
「事業所が何カ所あるか」ではなく「後期高齢者1万人当たり何カ所か」でみると、順位は通念と逆転します。
| 順位 | 都道府県 | 75歳以上1万人当たり事業所数 |
|---|---|---|
| 1位 | 沖縄県 | 167.6 |
| 2位 | 和歌山県 | 156.8 |
| 3位 | 徳島県 | 152.5 |
| … | ||
| 42位 | 神奈川県 | 92.8 |
| 43位 | 千葉県 | 92.7 |
| 45位 | 東京都 | 89.2 |
| 47位 | 埼玉県 | 81.0 |
東京都は事業所の実数では全国2位(16,396カ所)ですが、後期高齢者当たりでは45位。1都3県がそろって最下位圏に沈んでいます。 首都圏は高齢化率がまだ全国最低水準(東京22.5%)で、高齢化の本番はこれから来ます。事業所1カ所当たりの規模が都市部ほど大きい点は割り引く必要がありますが、今後の新規指定需要が最も積み上がるのは首都圏という示唆は動きません。
5. 実務への示唆
- 外国人雇用支援のターゲットは「困っている地域」ではなく「余力のある法人」:受け入れの意思決定は規模で決まっています。複数事業所を持つ法人が母集団です。
- 入管業務と介護指定業務は、地理が異なる:受け入れ法人の厚い都市部(大阪・愛知・神奈川など)は入管業務の市場、後期高齢者当たり供給が薄い首都圏はこれからの指定申請の市場——重なる地域とずれる地域を区別して商圏を設計する価値があります。
- 地方の小規模法人には「自前で受け入れない」選択肢の支援:支援体制を組めない法人にとって、登録支援機関への委託設計や受け入れ以外の人材確保策の情報提供が現実的な支援になります。
IT・オンラインでの解決策
登録支援機関登録簿(Excel)と介護オープンデータ(CSV)はどちらも公開データであり、法人名の正規化(法人格の表記統一・全半角変換)さえ実装すれば、スプレッドシートとスクリプトで同種の突合が再現できます。自事務所の商圏に絞って「受け入れ実績のある法人規模帯」を把握すれば、提案の精度が上がります。なお突合結果は集計値として利用し、個別法人のリスト化・営業目的での利用は避けるべきです。
6. この分析の限界
- 兼業法人の抽出は法人名突合による下限値です(登録簿に法人番号がないため)。
- 人口は2025年1月1日、介護事業所は2026年6月末と、参照時点に約1年半の差があります。
- 事業所「数」ベースの分析であり、定員・利用者数・雇用人数は反映していません。
- 相関は因果関係を証明しません。「高齢化→受け入れ困難」は構造から導いた解釈です。
よくある質問
- Q.「人手不足が深刻な地方ほど外国人材を活用している」は本当ですか?
- A.データは逆を示しています。都道府県別に高齢化率と介護事業所の登録支援機関兼業率(外国人受け入れに関与する法人の比率)を突合すると、相関係数はマイナス0.36の逆相関でした。高齢化が進む県ほど受け入れ法人の比率はむしろ低い傾向にあります。
- Q.なぜ高齢化の進む地方で外国人受け入れが進まないのですか?
- A.受け入れには支援体制の整備や委託費などの継続負担が必要で、一定の法人規模が前提になるためとみられます。実際、介護と登録支援機関を兼ねる法人の平均保有事業所数は約12.7と、介護法人全体の平均の約4倍です。人手不足の深刻さではなく「受け入れる余力」が分布を決めています。
- Q.首都圏の介護インフラは充実していますか?
- A.後期高齢者1万人当たりの事業所数でみると、埼玉47位・東京45位・千葉43位・神奈川42位と、1都3県がそろって全国最下位圏です。首都圏はこれから高齢化が本格化する地域であり、事業所数ベースでは供給が薄い状態です。
編集長の一言
「困っているところに市場がある」とは限らない——このデータが示すのはその一点です。外国人受け入れの実態は、ニーズの深刻さではなく負担できる余力の分布に従っていました。支援業務の商圏設計も、同じ現実から始めるべきだと考えます。
出典・関連法令(一次情報)
- 厚生労働省「介護サービスの情報公表システム オープンデータ」(2026年6月末時点)(参照日: 2026-08-11)
- 出入国在留管理庁「登録支援機関登録簿」(2026年8月10日現在)(参照日: 2026-08-11)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」都道府県別年齢階級別人口(令和7年1月1日現在)(参照日: 2026-08-11)