永住許可ガイドライン改定案で新設される考慮要素のうち、最も構造が複雑なのが「年金」(第2の4(3))です。過去に払ったかどうかではなく、「将来いくら受け取れる見込みか」を測り、足りなければ年齢に応じた金融資産で補える——この仕組みを、改定案の原文に沿って図解します。改定案の全体像はこちら

この記事の結論

  • 審査で見るのは**「受給見込額」**=加入歴・平均年収・現在の年収から推計した、将来受給可能な年金額です。
  • 基準は**「受給年金水準」=日本人世帯の平均収入を上回る年収で30年間働き、厚生年金に加入し続けた場合**の受給見込額。
  • 見込額が基準未達でも、**申請時点で不足分を補える金融資産(補填資産)**があれば基準到達と評価されます。基準額は若いほど低い
  • 夫婦は世帯単位で合算して判断。適用は2027年4月1日以降の申請からで、遡及はありません。

1. 全体の構造 — ものさしは「30年厚生年金」

改定案第2の4(3)の骨格を図にすると次のようになります。

【あなた側】                          【ものさし側】
申請時点の年齢・全期間の加入状況        平均収入超の年収で30年間就労し
(働き方・加入期間・平均年収)          その期間ずっと厚生年金に加入した
+現在の年収                           場合の将来受給額
      ↓ 推計                                ↓
  受給見込額         ≧?          受給年金水準
      │                                    
      ├─ 達している ────────────→ 考慮要素をクリア
      │
      └─ 達していない
             ↓
      申請時点の金融資産(補填資産)で不足分を補えるか
        ・基準額は申請時の年齢に応じて設定
        ・若い申請者ほど基準は低い
             ↓
      補える → 基準に達しているものと評価

原文の該当箇所です。

【原文】申請時点の年齢、申請時点までを含む加入対象期間全ての年金の加入状況(従前の働き方(自営業、会社員等)、年金加入期間、その期間の平均年収等)及び申請時点の年収から推計される将来において受給可能な年金の見込額(以下「受給見込額」といいます。)が、上記第2の4(2)の日本人世帯の平均収入を上回る年収水準で30年間働き、その期間、厚生年金に加入していた場合において将来受給可能な年金の見込額(以下「受給年金水準」といいます。)に達しているかを考慮要素とします。

ポイントは、ものさしが厚生年金30年加入で定義されていることです。厚生年金は報酬比例部分があるため、国民年金(基礎年金)のみの加入歴では見込額が基準を下回りやすい構造になっています。自営業・フリーランス期間が長い人ほど、次の「補填資産」が重要になります。

2. 不足分は金融資産で補える — 若いほど基準が低い

【原文】受給見込額が受給年金水準に達しない場合であっても、申請時点において、受給年金水準に不足する生活資金を補填可能な金融資産(以下「補填資産」といいます。)を有すると認められるときは、受給見込額が受給年金水準の額に達しているものと評価します。

そして補填資産の基準額は一律ではありません。

【原文】若年であるほど長期にわたって金融資産が形成可能であることを考慮して、補填資産額の基準は、申請時の年齢に応じたものとし、若年の申請者の場合は、年金の受給開始年齢に近い申請者の場合に比べ、補填資産額の基準は低いものとなります。

申請時の年齢補填資産の基準額
若い低い(これから資産形成できる期間が長いため)
受給開始年齢に近い高い(補うべき生活資金が現実に迫っているため)

「若いうちに申請するほど有利」という構造が、原文から直接読み取れる数少ない箇所です。

3. 夫婦は世帯単位で合算する

【原文】受給年金水準及び補填資産額についても、原則として同一生計世帯単位で判断します。配偶者がいる場合には、申請者及び配偶者の受給見込額を合算し、これが、受給年金水準の額に、配偶者が申請者と同期間被扶養者として国民年金の第3号被保険者であった場合において受給可能な年金の見込額を加算した額に達しているかを考慮要素とし、補填資産額もこれに応じて加算します。

  • 分子(あなた側):申請者+配偶者の受給見込額の合算。
  • 分母(ものさし側):受給年金水準+「配偶者が同期間ずっと第3号被保険者だった場合」の見込額。

共働きで夫婦とも厚生年金に加入していれば分子が積み上がる一方、ものさし側の加算は第3号(専業主婦・主夫相当)ベースで固定されているため、世帯での加入形態によって有利不利が生じる設計です。世帯の数え方は収入要件の世帯ルールと共通の考え方です。

4. 適用時期と、まだ決まっていないこと

項目内容
適用開始2027年(令和9年)4月1日以降の申請(改定案第6)
遡及適用なし(遡及構造があるのは収入・公共の負担の2項目のみ)
未公表受給年金水準の具体額/補填資産の年齢別基準額/見込額の推計方法・証明書類

具体額と算定方法が公表されない限り、「いくら貯金があれば大丈夫」という断定はできません。確定情報が出た時点で本記事を更新します。

IT・オンラインでの解決策

自分の年金記録と将来見込額は「ねんきんネット」でオンライン確認できます。加入履歴(国民年金・厚生年金の別、期間、標準報酬)をCSVで取得し、年ごとの加入状況を一覧にしておくと、制度確定後にすぐ自己診断できる準備になります。マイナポータル連携を使えば登録も即日です。

まとめ

項目内容
見られるもの将来の年金の受給見込額(加入歴+現在の年収から推計)
ものさし平均収入超の年収×30年×厚生年金加入の場合の見込額(受給年金水準)
不足時年齢に応じた基準の金融資産(補填資産)で補填可能
単位原則、同一生計世帯(夫婦は合算)
適用開始2027年4月1日以降の申請(遡及なし)
根拠永住許可に関するガイドライン(案)第2の4(3)・第6

よくある質問

Q.永住の年金要件の具体的な金額はいくらですか?
A.改定案に具体的な金額は書かれていません。基準は「日本人世帯の平均収入を上回る年収水準で30年間働き、その期間厚生年金に加入していた場合に将来受給可能な年金の見込額」(受給年金水準)と定義されており、金額の算定方法の公表が待たれる状態です。
Q.年金の見込額が基準に足りない場合、永住は諦めるしかありませんか?
A.改定案は、不足分を補える金融資産(補填資産)を申請時点で有していれば、基準に達しているものと評価するとしています。補填資産の基準額は申請時の年齢に応じて設定され、若い申請者ほど低くなる構造です。
Q.年金要件はいつから適用されますか?
A.改定案第6により2027年(令和9年)4月1日以降の申請から適用されます。収入・公共の負担と異なり遡及適用の対象ではないため、現在審査中の案件やそれ以前の申請には適用されません。
Q.国民年金だけに加入してきた自営業者は不利になりますか?
A.基準となる受給年金水準が「厚生年金に30年加入した場合」で定義されているため、国民年金のみの加入では見込額が基準を下回りやすい構造です。その場合は年齢に応じた補填資産で補うことになります。制度の詳細は案の段階のため、確定情報の公表を確認してください。

編集長の一言

この項目の設計は「過去に納めたか」ではなく「老後に公共の負担にならないか」を見る、将来向きの審査です。実務的な備えは2つ——ねんきんネットで自分の見込額を把握しておくこと、そして申請時期が遅くなるほど補填資産の基準が上がる構造を踏まえてタイミングを設計することです。

出典・関連法令(一次情報)