永住許可ガイドライン改定案とは、出入国在留管理庁が2026年(令和8年)8月4日に公表した、永住許可の審査で考慮する事項の基本的な考え方(ガイドライン)を全面的に見直す案のことです。収入・年金・日本語能力・子の就学など、これまで明文化されていなかった考慮要素が具体的に示されています。本記事では、公表された改定案の本文(13ページ)と概要資料を原文で読み、現行ガイドライン(令和8年2月24日改訂)と対照しながら変更点の全体像を解説します。

この記事の結論

  • 永住許可の3要件(素行善良・独立生計・国益)のうち、独立生計要件と国益要件の考慮要素が大幅に具体化されます。収入は「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」、年金は「将来の受給見込額」、日本語は「B1相当以上」が考慮要素になります。
  • 意見募集(パブリックコメント)は2026年9月3日(木)必着です。
  • 適用は2027年(令和9年)4月1日以降の申請からですが、収入と公共の負担に関する考慮要素は前倒しで、改定日の6か月前以降に申請され改定日時点で審査中の案件にも適用するとされています(改定日は未確定)。

1. 改定案の全体像 — 何がどう変わるのか

法律上の要件は変わらない — 変わるのは「考慮要素」

永住許可の要件そのものは、入管法第22条第2項に定められています。

【出入国管理及び難民認定法 第二十二条 第2項(抜粋)】 前項の申請があつた場合には、法務大臣は、その者が次の各号のいずれにも適合し、かつ、その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り、これを許可することができる。(略) 一 素行が善良であること。 二 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。

― 出典: e-Gov法令検索(2026-08-17 取得)

改定案は、この「素行善良要件」「独立生計要件」「国益要件」の3つを審査するときに何を考慮するかを示すガイドラインを書き換えるものです。法律の条文が変わるわけではありません(なお、令和6年改正入管法により「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」の文言が令和9年4月1日に法律上追加されますが、改定案はこれを「従前の記載を法律上の要件として明確化したもの」と説明しています)。

「永住者」の位置付けが初めて明記される

改定案の総論では、「永住者」の在留資格を次のように位置付けています。

【永住許可に関するガイドライン(案) 第1の1(抜粋)】 「永住者」の在留資格は、在留活動及び在留期間の制限のない最も安定した法的地位であって、この在留資格が付与された外国人は、その後の生涯を本邦に生活の本拠を置いて過ごすことが想定されていることから、永住許可の許否の判断をするに当たっては、特に慎重な審査を行う必要があります。

― 出典: e-Gov パブリック・コメント 案件番号315000140 添付「永住許可に関するガイドライン(案)」(2026-08-17 取得)

現行ガイドラインにはこのような位置付けの記載はありません。「特に慎重な審査」という表現が、以下の各考慮要素の具体化につながっています。

現行 vs 改定案 対照表

出典: 現行「永住許可に関するガイドライン(令和8年2月24日改訂)」および「永住許可に関するガイドライン(案)」(2026年8月4日公表)。項番は改定案本文のもの。正確な文言は必ず原文をご確認ください。
項目現行ガイドライン改定案
「永住者」の位置付け記載なし「最も安定した法的地位」であり「特に慎重な審査を行う必要」と明記(第1の1)
独立生計要件の考え方「公共の負担にならず、資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること」「現在及び将来において自活可能」で「日本人と同等水準以上の経済条件」を求める。原則として同一生計世帯単位で審査(第2の4(1))
収入具体的な水準の記載なし世帯年収が「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」に継続して達しているかを考慮。就労資格でない同居家族(家族滞在など)の収入は合算しない。扶養親族(海外居住を含む)は世帯人数に加算(第2の4(2))
年金公的年金の保険料納付を「公的義務の履行」として確認将来の受給見込額が「上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた場合の見込額」に達しているかを考慮。不足分は年齢に応じた基準の金融資産(補填資産)で補える。配偶者がいる場合は合算(第2の4(3))
国益要件の考え方各考慮事項を列挙「単に国益に反しないという消極的なものにとどまらず、積極的かつ具体的に…利益をもたらす必要」と明記(第2の5(1))
法令上の義務・公租公課適正な履行を要求。期限内不履行は原則消極評価同旨。過去の義務違反・滞納処分歴も原則消極評価。公租公課は世帯単位で審査(第2の5(2)(3))
在留歴原則10年以上、うち就労資格・居住資格で5年以上同じ。加えて過去10年以内に「一回の出国で半年以上」または「通算2年6月以上」の不在があれば原則消極評価と明記(第2の5(6))
公共の負担独立生計要件不要な類型(配偶者・子等)は経済面の確認なし独立生計要件不要な類型でも、現に公共の負担となっている場合やそのおそれが現実的な場合、特段の事情がなければ消極評価をすることがある(第2の5(7))
日本語能力記載なし「日本語教育の参照枠」B1相当レベル以上を考慮要素に。高度人材外国人とその家族、初等・中等教育を累計6年以上受けた人、一定条件の永住者の子などは考慮要素としない(第2の5(8))
制度・ルールの理解記載なし「生活・就労ガイドブック」記載事項を中心に理解度を確認し、乏しい場合は消極評価(第2の5(9))
学齢期の子の就学記載なし義務教育期間の子が小学校・中学校に通学しているかを考慮(第2の5(10))
配偶者の特例(原則10年在留の例外)婚姻生活3年以上かつ在留1年以上婚姻生活5年以上かつ在留3年以上(第3の1)
実子等の特例在留1年以上在留3年以上(第3の1)
「我が国への貢献」別のガイドラインを参照本ガイドライン第4に統合し、別ガイドラインは廃止(第6)

収入 — 「世帯平均超え」という新しい基準

改定案は、申請時点で世帯年収が「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」に継続して達しているかを考慮要素とします。ポイントは3つです。

  1. 世帯単位で見る(住居と家計を共にする人の年収を合算。単身なら本人のみ)
  2. 就労資格でない在留資格(家族滞在など)の同居家族の収入は合算しない
  3. 扶養する親族は同居していなくても、海外居住でも世帯人数に加算する。5人以上の世帯は年収水準に加算がある

具体的な金額は改定案本文には示されていません。世帯人数ごとの目安は今後の公表資料を待って別記事で解説します。

年金 — 「受給見込額」という考え方

これまでは「保険料を納付しているか」が中心でしたが、改定案では、将来の年金受給見込額が「上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた場合の見込額(受給年金水準)」に達しているかが考慮要素になります。不足する場合でも、申請時の年齢に応じた基準の金融資産(補填資産)があれば達しているものと評価するとされ、若い申請者ほど基準は低くなります。ねんきん定期便やねんきんネットで自分の見込額を確認しておくことが第一歩です。

日本語能力 — B1相当以上が考慮要素に

「日本語教育の参照枠」(令和3年10月12日文化審議会国語分科会報告)のB1相当レベル以上が考慮要素になります。ただし改定案は、次のような場合は「必ずしも申請者本人にB1相当レベル以上の日本語能力を求める必要性・相当性があるとはいえない」として考慮要素としないとしています。

  • 高度人材外国人(第3の6〜8に該当する人)とその家族
  • 学校教育法上の初等教育または中等教育を累計6年以上受けた人
  • 永住者の子(養育する親がB1相当以上で、子が日本で出生した場合)

どの試験のどの級がB1相当にあたるかは、改定案本文には書かれていません。対応試験の整理は別記事で扱います。

配偶者・実子等の特例 — 必要年数の引き上げ

日本人・永住者・特別永住者の配偶者は「実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し、かつ引き続き1年以上在留」から「5年以上・3年以上」に、実子等は「1年以上」から「3年以上」に伸長するとされています。影響を受ける人が多い変更点です。

2. 適用時期 — 2027年4月、ただし収入要素は前倒し

改定案第6は適用時期を次のように定めています。

【永住許可に関するガイドライン(案) 第6(抜粋)】 本ガイドラインの改定は令和9年4月1日以降の申請から適用します。 ただし、上記第2の4(2)及び第2の5(7)は、本ガイドラインの改定日から6か月前の日以降の申請であって、かつ、改定日において申請中である案件にも適用します。

― 出典: 同上

つまり、収入(第2の4(2))と公共の負担(第2の5(7))の考慮要素は、改定日の6か月前以降に申請され、改定日の時点でまだ審査中の案件にも適用されます。概要資料はこの点を「収入に関する要素は本年(2026年)10月施行」と説明しています。改定日そのものは本文で「令和8年○月○日」と空欄で、2026年8月時点では確定していません。

この規定を素直に読むと、改定前に申請していても審査中であれば収入要素が新しい考え方で考慮されうることになります(※改定案の記載に基づく編集部の読み方であり、実際の運用は確定していません)。「今出せば旧基準で審査される」と単純には言えない構造になっている点は押さえておく必要があります。

在留期間「3年」の人の経過措置

改定案の注4は、令和9年3月31日までの申請では在留期間「3年」でも「最長の在留期間をもって在留している」ものとして扱い、令和9年4月1日以降は、同年3月31日時点で「3年」を持ち、初回の申請で、かつその在留期限までに処分を受ける場合に限り同様に扱うとしています。現行ガイドラインの注1とほぼ同じ内容が引き継がれています。

IT・オンラインでの解決策

改定案への意見は、e-Govの意見提出フォームからオンラインで出せます(電子メール・郵送も可)。手順とそのまま使える意見の型は、パブコメの出し方の記事で解説しています。年金の見込額は「ねんきんネット」でオンライン確認できます。在留関係の手続きもオンライン申請の対象が順次拡大しており、最新の対象手続きは出入国在留管理庁のサイトで確認できます。

3. いま準備できることチェックリスト

  • 住民税の課税証明書など、世帯全員分の収入関係の書類を直近数年分整理する
  • ねんきん定期便・ねんきんネットで納付状況と将来の受給見込額を確認する
  • 日本語能力を証明できる試験結果があるか、初等・中等教育の在学歴が累計6年以上あるか確認する
  • 扶養している親族(海外居住を含む)と、学齢期の子の就学状況を整理する
  • 過去10年の出国期間(1回で半年以上、通算2年6月以上)を数え直す
  • 改定案に意見がある場合、パブリックコメントの提出を検討する(9月3日必着)

まとめ

項目内容
対象永住許可を申請する(予定の)外国人
公表日2026年(令和8年)8月4日
意見募集2026年9月3日(木)必着(e-Gov フォーム/電子メール/郵送)
適用2027年(令和9年)4月1日以降の申請から。収入・公共の負担の要素は改定日の6か月前以降の申請中案件にも適用(改定日は未確定)
根拠出入国管理及び難民認定法第22条第2項/永住許可に関するガイドライン(案)

よくある質問

Q.永住許可ガイドラインの改定はいつから適用されますか?
A.改定案(第6)では、令和9年(2027年)4月1日以降の申請から適用するとされています。ただし収入と公共の負担に関する考慮要素は、改定日の6か月前の日以降に申請され改定日時点で審査中の案件にも適用するとされ、概要資料では「収入に関する要素は本年(2026年)10月施行」と説明されています。改定日自体は2026年8月時点で未確定です。
Q.すでに永住申請を準備している場合、急いで申請すべきですか?
A.改定案の記載を読む限り、改定前に申請しても審査中であれば収入要素が新しい考え方で考慮されうる構造になっています。ただし運用の詳細は確定しておらず、個々の状況で結論は異なります。最新の公式情報を確認し、必要に応じて行政書士等の有資格者に相談してください。
Q.日本語能力はどの程度求められますか?
A.改定案では「日本語教育の参照枠」のB1相当レベル以上を考慮要素とするとされています。高度人材外国人とその家族、日本で初等・中等教育を累計6年以上受けた人、一定条件を満たす永住者の子などは考慮要素としないとされています。
Q.改定案に意見を出すことはできますか?
A.できます。意見募集期間は令和8年8月4日から9月3日(木)必着で、e-Govの意見提出フォーム、電子メール、郵送のいずれかで提出できます。意見は日本語に限られます。
Q.配偶者ビザから永住を申請する場合の特例はどう変わりますか?
A.現行は「婚姻生活3年以上かつ在留1年以上」ですが、改定案では「婚姻生活5年以上かつ在留3年以上」に、実子等は「在留1年以上」から「3年以上」に伸長するとされています。

編集長の一言

「案」の段階で13ページの原文を読んでおくと、確定したときの対応が格段に早くなります。特に第6の適用時期は要約記事では落ちやすい部分です。本サイトでは、年収水準・年金・日本語B1の各論と、確定後の変更点を順次追いかけます。

出典・関連法令(一次情報)