2026年8月4日、出入国在留管理庁は永住許可ガイドライン改定案と同じ日に、**「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」**を公表し、意見募集を始めました。永住の「入口」(許可要件)を定める改定案に対し、こちらは許可後の「在留中」に関する文書——令和6年入管法改正で追加された取消事由を、どう解釈し、どう運用するかの指針案です。本記事では11ページの案本文の原文をもとに、対象となる行為・ならない行為、そして「取消しではなく職権変更が原則」という仕組みを解説します。
この記事の結論
- 対象は令和6年改正で追加された取消事由2つ:入管法上の義務違反・故意の公租公課不払(22条の4第1項8号)と特定の刑罰法令違反による拘禁刑(同9号)。
- 税金・保険料は**「故意に」=支払意思がないことが明白な場合に限定**。病気・災害・失業、分納中、会社の納付漏れは非該当と明記。
- 取消事由に該当しても職権変更(ほとんどの場合「定住者」へ)が原則。取消しは「引き続き在留が適当でない」場合に限られ、職権変更後に要件を満たせば再度の永住許可も可能。
- 意見募集は2026年9月3日(木)必着。出し方の型は姉妹記事と同じです。
1. なぜこのガイドラインが作られたのか
令和6年の入管法改正で、「永住者」の在留資格を取り消すことができる事由として22条の4第1項8号・9号が追加されました(それまで永住者の取消しは、許可申請に虚偽があった場合等に限られていました)。
その際、衆議院・参議院の附帯決議は次のように求めました(案・注1より原文)。
永住者に対する永住許可の取消及び職権による在留資格の変更を行おうとする場合には、既に我が国に定住している永住者の利益を不当に侵害することのないよう、定着性及び法令違反の悪質性等の個別事情を厳正に判断するとともに、具体的な事例についてのガイドラインを作成し周知するなど、特に慎重な運用に努めること。
本ガイドライン案は、この附帯決議を踏まえ、外国人及び関係者の予見可能性と処分の公平性を確保することを目的として作成されたものです。構成は第1「総論」〜第4「職権変更又は取消しの判断の考え方等」の4部・本文11ページです。
2. 取消事由①:入管法上の義務違反(8号前段)
「この法律に規定する義務」とは、入管法の罰則で担保され、かつ退去強制事由に該当しない義務を指します。案が挙げる主な類型は次のとおりです。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 在留カードの更新・再交付申請義務 | 有効期間満了や紛失時に更新・再交付を申請しない |
| 在留カード・旅券の携帯・提示義務 | 不携帯、提示を求められた際の拒否 |
| 在留カードの偽変造等の禁止 | 偽変造、偽変造カード・他人名義カードの行使・提供・収受(未遂の場合) |
| 不法入国者等の蔵匿等の禁止 | 逃走を助ける目的でかくまう等(未遂の場合) |
重要なのは案に明記された2つの限定です。
- 「正当な理由」があれば該当しない — 病気や災害その他の事情により義務を履行できなかった場合。
- 一度の不履行だけで取り消すことは想定していない — 更新を失念した場合や不注意による不携帯も取消事由には該当するものの、「その一度の義務の不履行だけをもって在留資格を取り消すことは想定していません」(案・第2の1(3)※)。
3. 取消事由②:故意に公租公課の支払をしないこと(8号後段)
もっとも関心が高いのがこの部分でしょう。案は対象と限定を細かく定義しています。
「公租公課」に含まれるもの・含まれないもの
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 公租(租税全般) | 所得税、住民税、法人税、固定資産税 等 |
| 公課(租税以外の公的負担金) | 国民健康保険・健康保険の保険料、国民年金・厚生年金保険の保険料 等 |
| 含まれない | 手数料・利用料(例:富士山の登下山道使用料)、罰金・反則金 |
なお、実際に滞納が発生している場合だけでなく、申告が必要と明白なのに申告しないことで支払を免れている場合も含みます。また、法人に課される公租公課でも、その法人の経営・管理に実質的に関与する永住者があえて支払わないときは該当し得ます。
「故意に」の意味 — 単なる滞納は対象ではない
案は「故意に」を「支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払をしない場合」と定義し、この文言の趣旨を「支払をしないことが悪質といえる場合に取消事由を限定すること」と明言しています。判断は収入・財産状況、滞納の回数・額・期間、経緯、本人の言動等の総合考慮で、「公租公課の支払意思がないことが明白と認められる場合」が該当します。一律の金額基準は設けない、とも明記されています(案・第2の2(4))。
該当する事例・しない事例(案・第2の2(3)より)
| 該当すると想定される事例 | 該当しないと想定される事例 |
|---|---|
| 長期滞納+無届転居などで所在不明 | 病気・災害・失業などやむを得ない事情(事業不振、感染症・災害による収入変動、DV被害、ハラスメントを原因とする離職を例示) |
| 繰り返しの催告・滞納処分にも支払の相談すらしない | 催告に応じて支払意思を示し、分納・猶予措置を受けている |
| 分納・猶予の約束期限までの不納付を繰り返す | 生活保護に準じた措置を受けている |
| 脱税等で有罪判決 | 給与から控除されているのに、所属企業が納付していない |
| 財産隠蔽など徴収を妨げる不正行為 | |
| 法人の経営に実質的影響力を持つ立場で上記に該当 |
4. 取消事由③:特定の刑罰法令違反による拘禁刑(9号)
9号は対象となる罪を限定列挙しています。主なものは、刑法の住居侵入・通貨偽造・文書偽造・賭博・殺人・傷害・逮捕監禁・略取誘拐・窃盗・強盗・詐欺・恐喝・盗品等に関する罪のほか、暴力行為等処罰法、盗犯等防止法、特殊開錠用具所持禁止法、自動車運転死傷処罰法の危険運転致死傷などで、いずれも故意犯です。
- 「拘禁刑に処せられたこと」は刑期の長短を問わず、執行猶予も含みます(拘禁刑には令和4年刑法改正前の懲役・禁錮を含む——案・注6)。
- ただし初犯であれば取消しではなく職権変更が想定され、取消し(在留不可)となるのは「犯罪傾向が進んでいると認められる場合」——例えば永住許可後に拘禁刑前科があり、さらに9号の罪で拘禁刑に処せられた場合です。
5. 「取消し」ではなく「職権変更」が原則
本制度の最大のポイントです。取消事由に該当しても、「当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き」、法務大臣が職権で他の在留資格への変更を許可します(入管法22条の6)。案は次を明記しています。
- 職権変更では「ほとんどの場合は、『定住者』の在留資格への変更を許可することを想定」
- 職権変更後に永住許可の要件を満たせば、再度永住許可を受けることも可能
- 取消相当と判断される場合でも、家族関係や人道上の配慮の必要性があるときは職権変更とする場合もあり得る
つまり構造としては「取消事由該当 → 原則は定住者等への変更 → 悪質な場合に限り取消し」という二段構えです。
6. 国・自治体からの「通報」はどう扱われるか
令和6年改正では、国・地方公共団体の職員が取消事由に該当すると思料する外国人を知ったときの通報規定(62条の2)も整備されました。案の記載で押さえるべき点は次の3つです。
- 通報は義務ではなく任意。守秘義務を解除する法令上の根拠となるもの。
- 通報は取消手続の端緒にすぎず、通報があったことをもって直ちに取消事由該当と判断されるのではない。入管庁の調査・本人からの意見聴取を経て法務大臣が決定する。
- 形式は文書・口頭のどちらも可能だが、特段の事情がない限り文書が相当とされる。
7. 意見の出し方 — 9月3日(木)必着
提出方法は永住許可ガイドライン改定案の意見募集と同じ在留企画室宛てで、件名・封筒の記載だけが異なります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 締切 | 2026年9月3日(木)必着(郵送も必着) |
| e-Gov | 案件ページの意見提出フォームから |
| 電子メール | gyoumushitsu2chousa★moj.go.jp(★→@)宛て。件名は「パブリックコメント(永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案)」(すべて全角)。本文テキストのみ・添付不可 |
| 郵送 | 〒100-8973 東京都千代田区霞が関1-1-1 出入国在留管理庁在留管理支援部在留企画室 宛て。封筒に赤字で上記件名を記載 |
| 注意 | 日本語のみ/理由を付す/個人は氏名・住所等、法人は法人名・所在地を記載/電話不可/個別回答なし |
意見は「対象箇所+意見+理由」の型が基本です。本案は該当・非該当の事例の追加を求める意見が出しやすい構造で、たとえば「第2の2(3)②の非該当事例に○○のような場合も明記してほしい。理由は——」という形が考えられます。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 文書 | 永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)・本文11ページ |
| 対象 | 入管法22条の4第1項8号(義務違反・故意の公租公課不払)・9号(特定の刑罰法令違反による拘禁刑) |
| 核心 | 「故意に」=支払意思がないことが明白な場合に限定。一律の金額基準なし |
| 原則 | 取消しではなく職権変更(ほとんどは「定住者」へ)。再度の永住許可も可能 |
| 策定日 | 令和8年〇月〇日(未確定) |
| 意見募集 | 2026年8月4日〜9月3日(木)必着(案件番号315000141) |
よくある質問
- Q.税金を滞納すると永住資格を取り消されるのですか?
- A.単なる滞納では該当しません。案は「故意に」=支払義務を認識しながらあえて支払わない場合に限定し、支払意思がないことが明白と認められる場合が該当するとしています。病気・災害・失業などやむを得ない事情がある場合、分納や猶予措置を受けている場合、給与から控除されているのに会社が納付していない場合は、該当しない事例として明記されています。
- Q.取消事由に該当したら日本にいられなくなるのですか?
- A.直ちにそうはなりません。案では「引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合」を除き、法務大臣が職権で他の在留資格(ほとんどの場合は「定住者」)への変更を許可する職権変更が原則とされ、その後に永住許可の要件を満たせば再度永住許可を受けることも可能とされています。
- Q.執行猶予がついた場合も取消事由になりますか?
- A.なります。案は、9号の罪により「拘禁刑に処せられたこと」は刑期の長短を問わず、執行が猶予された場合も含むとしています。ただし初犯の場合は取消しではなく職権変更とすることが想定される、とも記載されています。
- Q.このガイドライン案はいつから運用されますか?
- A.案の策定日は「令和8年〇月〇日」と未確定です。意見募集(2026年9月3日必着)を経て確定します。なお対象となる取消事由(入管法22条の4第1項8号・9号)自体は令和6年改正法によるもので、ガイドラインはその解釈・運用指針を示す文書です。
編集長の一言
「税金を滞納したら永住取消し」という単純化された言説が広がりがちですが、案の原文は「故意に」を厳格に定義し、非該当事例(失業・分納中・会社の納付漏れ等)を具体的に明記しています。不安を煽る情報ではなく原文を確認すること——そして意見があるなら、9月3日までに正式ルートで届けることをおすすめします。
出典・関連法令(一次情報)
- 出入国在留管理庁「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案に係る意見募集について」(e-Gov パブリック・コメント 案件番号315000141)(参照日: 2026-08-08)
- 永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)本文(PDF・11ページ)(参照日: 2026-08-08)
- 意見募集要領(PDF・令和8年8月4日 出入国在留管理庁)(参照日: 2026-08-08)
- 出入国管理及び難民認定法 第二十二条の四(在留資格の取消し)(参照日: 2026-08-08)