技能実習で30年間「原則不可」だった本人意向の職場変更(転籍)が、育成就労制度では正式に認められます。受入れ企業にとってこれは、外国人材の雇用管理を根本から変える一番のポイントです。本記事では入管庁「育成就労制度の概要」(令和8年7月改訂)に基づき、転籍の要件と支援体制、そして2027年4月の施行までに企業が備えるべきことを整理します。

この記事の結論

  • 本人意向の転籍の条件は2つ:①試験合格(技能検定基礎級等+日本語A2.1相当以上——分野ごとに設定)と②同一機関での在籍期間(分野ごとに1年または2年)。
  • 転籍はハローワーク・監理支援機関・外国人育成就労機構が連携して支援する体制が制度に組み込まれています。
  • 企業の備えは「制限」ではなく「選ばれること」——賃金・環境・キャリア支援の点検が実質的な転籍対策です。

1. 転籍の2条件 — 原文から

条件①:試験合格

【原文】○ 技能検定基礎級等+○ 日本語能力A2.1相当以上の試験(JFT-Basic)(A1相当以上の水準から特定技能1号移行時に必要となる日本語能力の水準までの範囲内で各分野ごとに設定)⇒これらの試験への合格が本人意向の転籍の条件

ポイントは日本語水準が分野ごとに設定されることです。基準となる「A2.1」は文化審議会「日本語教育の参照枠」のレベルで、A1(JLPT N5相当)とA2.2(N4相当)の中間——「限定的・定型的なやりとりで実施可能な業務」ができる水準とされています。

条件②:在籍期間(分野ごとに1年または2年)

同一機関で分野ごとに定められた期間を就労していることが必要です。概要資料の人材基準表から確認できる例:

分野転籍可能までの在籍期間転籍時の日本語水準
介護2年A2.2相当以上
宿泊1年A2.1相当以上
物流倉庫1年A2.1相当以上
鉄道1年A2.1相当以上(運輸係員はA2.2相当以上)
農業 等2年

上記以外の分野・業務区分の期間と試験水準は、分野別運用方針・運用要領の該当分野で確認してください(本記事は概要資料の一覧表から確認できる範囲のみ記載しています)。

2. 転籍を支える体制 — 誰が関与するか

概要資料の関係機関図では、転籍支援に次の三者が関与します。

機関転籍での役割
ハローワーク育成就労を行いたい外国人からの求職の申込みの取次ぎ。監理支援機関・機構と連携して転籍を支援
監理支援機関育成就労外国人と育成就労実施者の間の雇用関係の成立のあっせん、適正実施の監査
外国人育成就労機構育成就労計画の認定・実地検査・指導助言。転籍支援に連携

つまり転籍は「本人が勝手に探す」のではなく、公的機関と許可制の機関が仲介する制度化されたルートで行われます。労働市場としての透明性が上がる分、条件の良い受入れ先に人材が動きやすくなる——企業間の獲得競争が制度に組み込まれたと読むべきです。

3. 企業が備えるべきこと — 3つの現実策

① 処遇の市場比較

転籍先として選ばれる企業と比較されるのは、同一分野・同一地域の受入れ企業です。賃金水準・残業管理・住環境を「地域の同業と比べてどうか」の視点で点検します。

② 1年目・2年目の育成計画を「見える化」する

育成就労計画には技能・日本語の目標が記載されます。本人にとって「ここにいれば特定技能1号に近づく」ことが実感できる職場は、転籍の動機そのものを減らします。特定技能への移行ルートを本人と共有し、試験対策を支援することが最も直接的な定着策です。

③ 転籍が起きた場合の事業継続計画

条件を満たした転籍は制度上止められません。特定の1〜2名に依存しない業務設計、採用パイプラインの複線化(監理支援機関との関係構築)を、施行前に整えておきます。

IT・オンラインでの解決策

自社の分野の転籍要件(在籍期間・試験水準)を分野別運用方針で確認し、在籍者ごとに「転籍可能になる時期」を人材台帳に載せておくと、面談・処遇見直しのタイミングを逃しません。日本語学習支援はJFT-Basic・JLPTの公式サイトの出題情報が起点になります。

まとめ

項目内容
転籍の条件試験合格(技能+日本語A2.1相当以上・分野ごと設定)+同一機関で1年または2年
支援体制ハローワーク×監理支援機関×外国人育成就労機構の連携
企業の対策処遇の市場比較/育成計画の見える化/転籍前提の事業設計
施行2027年4月1日(政令で確定)

よくある質問

Q.転籍はいつでもできるのですか?
A.できません。条件は2つで、①技能検定基礎級等と日本語能力A2.1相当以上の試験(分野ごとにA1相当以上から特定技能1号移行水準までの範囲内で設定)への合格、②同一機関で分野ごとに定められた期間(1年または2年)の就労です。例えば宿泊・物流倉庫等は1年、介護・農業等は2年です。
Q.転籍を制限する契約はできますか?
A.本人意向の転籍は改正法が労働者の権利保護として認めた仕組みで、要件を満たした転籍を企業側が契約で妨げることは制度の趣旨に反します。企業にできるのは、転籍したいと思われない処遇・環境・キャリア支援を用意することです。なお具体的な運用の細部は主務省令・運用要領で定められるため、最新の公表資料の確認が必要です。
Q.転籍で人材を失う側の企業に補填はありますか?
A.入管庁の概要資料には、転籍の要件と支援体制(ハローワーク・監理支援機関・外国人育成就労機構の連携)が記載されていますが、送り出す側の企業への補填の仕組みはこの資料には記載されていません。育成投資の回収は、転籍が起きない職場づくりと採用計画の側で織り込むのが現実的です。
Q.技能実習の「転籍困難」問題はどうなりましたか?
A.技能実習では本人意向の転籍が原則できず、これが労働環境上の問題として指摘されてきました。育成就労はこれを制度レベルで転換し、本人意向の転籍を一定要件下で認めるとともに、やむを得ない事情がある場合の転籍とは別枠で運用します。労働者の権利保護を適切に図ることが概要資料に明記されています。

編集長の一言

「転籍解禁」を脅威として読むか、採用力で勝つチャンスとして読むか——同じ制度でも企業によって意味が正反対になります。確かなのは、選ばれる努力をした企業に人材が集まる方向に制度が設計されたこと。1年目の処遇と育成計画が、3年後の人員を決めます。

出典・関連法令(一次情報)